雫ちゃんの御朱印帳

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「ゆるキャラ」と「生態」。奇妙な取り合わせに聞き違いかと思ったが、雫はこくりと頷いた。 「そうです、生態です。角が生えているゆるキャラは、どういう体勢で眠っているのかわかりません。ずんぐりむっくりしたゆるキャラは、メタボなのではないかと心配してしまいます。そういうことをいろいろ気にしてしまうと、どうしてもかわいいキャラクターにならないんです」 「そんなことを真剣に考えなくてもよいのでは?」 「参拝者さまにお渡しするものなんですよ。真剣に考えなくてどうするんですか」  雫は両手の拳を握りしめて言った。  ごもっともではあるが、真剣になるポイントは絶対にそこじゃない。 「だったら……そうだ。あまおとあまこを描けばいいんじゃないですかね」 「あまお」「あまこ」は、源神社の神獣だ。あまおは黄色、あまこはピンクで、(つぶ)らな瞳がチャームポイント。詳細な伝承は不明だが、とにかくこの神社に「存在する」とされていて、境内の掲示板にも描かれている(これも誰が描いたのかは不明らしい)。  いいアイデアだと思ったが、雫はものすごい勢いで首を横に振った。 「正確な由来がわかっていない神獣を描くなんて。おそれ多いです!」 「おそれ多い」って……。面倒な子だとは思う。でも、こうも思う。  ──雫さんらしい。 「なら、俺がなにか描きますよ」  その一言が、自然と口を衝いて出た。少しではあるが、雫の双眸が広がる。 「でも壮馬さんは、絵が苦手なのでしょう?」 「その分、細かいことを気にしないで描けます。だから、俺がやります。もちろん手は抜きません。苦手なりに、真剣に描きますよ」  俺は雫の目を真っ直ぐに見つめて、力強く頷いた。
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