雫ちゃんの御朱印帳

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 次の日の昼休み。源神社の応接間にて。 「描いてきました!」  朝からずっと見せるのを我慢していた俺は、溜め込んだ思いを爆発させて雫に画用紙を差し出した。 「拝見します」  一礼して両手で画用紙を受け取った雫に、俺は言う。 「昨日一晩かけて描き上げた、源神社の新しいゆるキャラです。『トリーちゃん』と名づけました!」  トリーちゃんはその名のとおり、鳥居をモチーフにしたゆるキャラだ。赤い棒が縦に二本、それと交わる形で横に二本。上の横棒には黒い丸を二つつけ、下の横棒の両脇からは腕を生やしてみた。  客観的に見て、上手なイラストでないことは自覚している。縦棒も横棒も真っ直ぐ引けなかったからヨレヨレだし、鳥居の朱色を色鉛筆ではうまく表現できなくて何度も塗り重ねているうちに、なんとも言えない濁った色になってしまった。  上の横棒に描いた黒い丸は目のつもりなのだが、右の方が大きすぎるから左を少し大きくして……と思ったら今度は左の方が大きくなってしまったので右の方を大きく……と思ったら右の方が左より大きく……ということを繰り返しているうちに、巨大な穴にしか見えなくなってもいる。  でも、ゆるキャラなんだ。これくらい許されるだろう。  雫は両手で握った画用紙を、瞬きすらほとんどせず、じっと見つめ続けている。なんと言われるだろうか。どきどきしていると、雫は俺の顔へと視線を移した。どきどきが、一気に大きくなる。 「な……なんですか?」  訊ねても雫は答えず、今度は俺を見つめ続ける。うっすらとではあるが、眉間には切なげにしわが寄っていた。  ──まさか、俺のことを好きに?  こんな絵ではあるけれど、雫のために一生懸命がんばったから? ずっと雫に告白したくてもできないでいたのに、こんな形で決着がつくなんて……でも、雫とつき合うとしたら俺の方から気持ちを伝えたい……でもでも、それができないから苦労しているわけで、でもでもでも……。  どきどきが応接間全体に響き渡っているのではと思うほど大きくなったところで、雫は口を開いた。 「ごめんなさい」 「いえ、そういうことは、やっぱり俺の方から──」  うん?  ごめんなさい?  なんでこのタイミングで謝られるんだ? 状況を呑み込めないでいるうちに、雫は言った。 「わたしのわがままで、壮馬さんに無理をさせてしまいましたね」  意味がわからない。混乱する俺に、雫は深々と頭を下げた。 「壮馬さんは、利き手を痛めているんですよね。だから反対の手で描いて、こんな絵になってしまったんですよね。わたしが察して、事前にとめるべきでした。申し訳ありません」
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