うちの巫女さんは泳げない?

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「雫!」  白衣白袴を脱ぐのももどかしく、そのまま飛び込もうとする俺の肩を、兄貴がつかんだ。 「待つんだ、壮馬」  兄貴の声は、こんな状況だというのに信じられないくらい静かで、波紋一つない水面(みなも)のようだった。俺の方は、そのせいで余計に頭に血がのぼる。 「待てるか! このままだと雫が!」 「いいから」  兄貴がゆっくりと人差し指を伸ばす。その指し示す先を見た俺は、 「あれ?」 と呆けた声を上げてしまう。  海面で繰り広げられる光景を目にしたからだった。  雫は、巫女装束を纏っているとは思えないほどすいすい泳ぐと、女性の身体をつかんだ。なにか声をかけると、全身をばたつかせていた女性が噓のように落ち着きを取り戻す。  そこに、ゴムボートが近づいてきた。漕いでいる男性は、水遊びをしていた一般人のようだ。 「大丈夫ですか!」  ゴムボートの男性が飛ばしてきた声に、雫が「引き上げてください!」と叫び返す。男性は巫女さんが海にいることにぎょっとした様子だったが、すぐに近づき、慎重に雫たちをボートに引き上げた。  ようやく異変に気づいたらしいライフセーバーが猛スピードでこちらに泳いできたが、もう彼の出る幕はない。
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