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雫が口にした言葉の意味を頭をフル回転させて考えて、理解した。
そうか。やっぱり自分では描けないと判断して、誰かに頼んだのか。それが後ろめたくて、浮かない様子だったのか。
そんな必要、全然ないのに。
「気にしなくていいですよ。宮司だって、きっとそう言うに決まってます」
「──そうですよね」
箒の柄を握りしめた雫の手から、力が抜けていく。
「気にしなくていいですよね。ここは神社なのですから」
「そうですよ。なんてったって、ここは神社──」
うん?
ここは神社なのですから?
「誰かに頼んだこと」と「ここが神社であること」に関係があるとは思えない。もしや俺は、壮大な勘違いをしているのでは? 詳しいことを訊きたくはなった。でも、
「壮馬さんにそう言ってもらえて、ほっとしました。やっぱり神社だと、こういうことが起こりうるんですね。宮司さまにも、後でお伝えしないといけませんね」
雫は呟きながら、うんうん、としきりに頷いている。いまさら「誰かに頼んだから浮かない顔をしていたわけではないんですか?」などと訊ける雰囲気ではない。
「き……気にしなくていいとは思うけど、具体的にどういうことがあったのか雫さんの口から聞いてみたいなー、なんて、思ったりなんかしたりしてないわけでもない、ということはないんですけど……」
口ごもりながら最後に「ない」をつけまくった結果、これでは「聞きたいと思ってない」という否定になってしまうことに気づいた俺は、慌てて「聞いてみたいです」とつけ加えた。雫は微かに首を傾げたものの、説明を始める。
「昨日の夜は疲れ切っていて、画用紙を机に広げはしましたが、少しだけ休もうと布団に横になったらそのまま熟睡してしまったんです。目が覚めたら朝だったので、慌てて飛び起きました。そうしたら画用紙に、あまおとあまこが描かれていたんです」
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