うちの巫女さんは泳げない?

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*  砂浜に戻った雫は、ずぶ濡れになった巫女装束が全身にぴたりと張りつき、一本に束ねた黒髪はほどけて海水を滴らせていた。緋袴の裾には、金色の砂があっという間にこびりついていく。  女性は、念のため医務室に連れていかれることになった。それを見届けるなり、雫は俺と兄貴に頭を下げる。 「お騒がせしまし──」 「危ないだろう、なにを考えてるんだ!」  雫が言い終える前に、強い一言が口を衝いて出た。両手はいつの間にか、雫の華奢な両肩をつかんでいる。  次の瞬間、雫は氷塊のように冷え冷えとした瞳で俺を睨み上げた。 「敬語を使ってください。わたしは壮馬さんより年下だけれど、教育係なんですよ」  絶対にそんなことを言われている場合ではないが、迫力に吞まれて手を離し、「すみません」と謝ってしまう。 「でも巫女装束を着たまま飛び込むなんて。危ないじゃないですか」 「泳ぐのは得意ですから。それに、ゴムボートが視界に入っていました。すぐ、溺れている人に気づいてくれるはず。それまで女性を落ち着かせればいいのだから、リスクは小さいと判断したんです」 「さすが雫ちゃん。咄嗟に冷静な判断を下したことに関しては、僕も敬意を表するよ」  兄貴はのどかな拍手を挟んだ後、少しだけ右目を眇めて続ける。 「でも雫ちゃんは、泳げないんじゃなかった?」  あ。  混乱してすっかり忘れていたが、そういえば。
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