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「どうして足りないんでしょう……」
机に置いた木箱にお金を戻しながら呟く雫に、なんと言ってよいかわからない。
雫が数えているのは、お守りやお札の代金だ。一つ売る度に記録をとっているのだが、本日の売れた個数と売上金額が合わない。具体的には、売上が少ないのだ──たったの10円。
神社では、参拝者にお守りなどを〝売る〟場所を授与所という。お守りやお札は神さまが宿っているとされるので、〝売る〟のではなく「授与する」ものだからだ。
参拝者からお金を取っている時点で〝売る〟と同じだと思うのだが、そんなことを言ったら雫の逆鱗に触れてしまう。
「どこかに10円玉が落ちているとしか思えません。徹底的にさがしましょう」
「宮司は『10円くらい構わない』と言っていましたよ」
颯爽と立ち上がる雫に、駄目元で言ってみる。宮司というのは、各神社で働く神職たちを束ねる存在、一般企業でたとえるなら社長のようなものだ。
この神社の宮司の名は草壁栄達。十一歳年上の俺の兄貴で、先代の宮司の一人娘・琴子さんと結婚して婿養子になった。
「それは宮司さまの本意ではないでしょう。参拝者さまからお納めいただいた大切なお金ですから、計算が合うならそれに越したことはないはずです」
雫は予想どおりの言葉を、予想以上にきっぱりした口調で言った。
それならば。
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