10円玉がない

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「だったら、お賽銭から10円取り出しましょう!」  俺は笑顔で言った。  参拝者が賽銭箱に投げ込んだお金を失敬して授与所の金額を合わせる──これは、神社のちょっとした裏技なのだという。「宮司も計算が合わないときはやってますし」と続けようとして、俺の全身は凍りついた。  雫から逬る、激しい冷気を目の当たりにして。  逆鱗に触れた、と思ったときにはもう遅い。 「参拝者さまが神さまに捧げたお金をそんなことに使うなんて。許されるはずありません。宮司さまがお聞きになったらがっかりしますよ」  その宮司さまから教えてもらったのだが、とても言える雰囲気ではない。  参拝者には「ようこそお参りでした」と、とびきり愛らしい笑顔を見せるくせに。「愛嬌を振り撒くのは巫女の務め」と大まじめに考えているんだよな、この子。同僚の俺にも、その10000分の1でいいから愛嬌を振り撒いてほしい。17歳と言えば、箸が転んでもおかしい年頃なのに……なんて叶うはずのない願いはさておき、10円だ。  早いところ見つけて雫とご飯を食べたいのに、どうしたものか。
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