10円玉がない

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 白衣と緋袴の間に10円玉が……なにかの弾みで落ちて、挟まってたんだ。気づかないで一生懸命さがし回ってたなんて笑える。コントみたいだ!  思わず笑いながら口を開く直前、雫は厳しい声で言った。 「やっぱり、わたしのミスだったのでしょうか。気が緩んでるのかもしれませんね。もっと緊張感を持って自分を律して生活しなくてはなりません」  息を吞んだ。この子は「箸が転んでもおかしい年頃」の対極にいる17歳なのだ。「白衣と緋袴の間に挟まってました」と言っても、俺と違って笑うはずがない。  気づかなかった自分を責め、猛省し、食事どころではなくなる。 「壮馬さんは、先にあがってください。わたしは10円を見つけるまで休むわけにはいきません。それがわたしの責任であり、義務です」  この子は本気で言っている。10円玉を見つけるまで、絶対にこの場を離れない。気づかれないよう速やかに木箱に10円玉を戻し、もう一度数え直すしかない。  でないと俺は永久に、雫と夕飯を食べられない!
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