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境内の玉砂利を箒で均していると、楠の根本に人が集まっていることに気づいた。人数は7、8人。若い男女や子ども、お年寄りもいる。
「かわいいー」
「超なつっこい!」
ここ源神社は、横浜・元町という場所柄いつも参拝者が多いが、ああいうのは珍しい。なんだろう、と思って様子を見に行くと。
「にゃー」
黒猫がいた。
サイズ的に、まだ子猫だ。首輪もしていないし、やせているから野良猫だろう。でも参拝者たちにまとわりついているところを見ると、もとは飼い猫だったのかもしれない。
捨てられたのかな、かわいそうに──と思っていると、黒猫は俺の袴の裾に鼻先を寄せてきた。袴が汚れる、と避けかけたが、黄色い瞳に見上げられ足がとまる。
か……かわいい……。
参拝者たちが「じゃあね」「バイバイ」と黒猫に手を振り去っていく。俺はといえば、裾に鼻先や額をこすりつけてくる黒猫を、ただ見つめることしかできない。
猫動画を見てはしゃぐ人たちの気持ちが初めてわかった。こんなにちっちゃくて、ふわふわもふもふした生き物が動く様子がかわいくないはずがない……。ああ、俺はいままでどれだけ人生を損していたんだ……。
「氷の巫女」「雪の女王」などという異名を持つ雫だって、俺と同じように思うに違いない。
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