巫女さんは黒猫がお嫌い?

3/10

205人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
 雫は参拝者には愛くるしい笑顔を見せるけれど、普段は冷え冷えとした無表情だ。でも、ふわもふな猫を前にしたら。  ──よーし、よしよしよし。かわいいねえ♥  猫撫で声でそんなことを言って、猫のお腹を撫でて目尻を下げる雫……。  かわいい! 猫とは違う意味で、絶対かわいい!! 「参拝者さまから聞きました。猫がいるそうですね」  氷の礫のような声で、自分が両手の拳を握りしめ、天を仰いでいることに気づいた。慌てて振り向くと、雫が立っている。 「そうなんですよ」  言外に「かわいいですよね」という同意を求め、俺は黒猫を指差した。  雫は答えず、黒猫の後ろ首をつまんで持ち上げる。そのまま、短い四つ脚をぱたぱたさせる黒猫には構わず、冷たい表情を崩さず、すたすた歩き、鳥居に続く階段を下りていく。  え? ええ? えええ?  俺が戸惑っているうちに戻ってきた雫は、手ぶらだった。  「境内の外に置いてきました。さあ、仕事に戻りましょう」
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

205人が本棚に入れています
本棚に追加