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「猫がかわいくないんですか!」
つい大きな声を上げる俺とは対照的に、雫は冷静沈着の見本のような声で答える。
「かわいいですよ。犬派か猫派かと訊かれたら、猫派ですし」
「全国の猫派が聞いたら激怒するレベルで全然そうは見えませんでしたけど!?」
「当然です。参拝者さまの中には、猫が嫌いな人も、猫アレルギーの人もいるでしょう。迷惑になるから、猫に境内をうろつかせるわけにはいかないんです」
「だからって、なにも追い出さなくても……」
「みなさまに気持ちよく参拝していただくことも、巫女の務めです。日本神話で猫が重要な役割を果たしているのなら、見て見ぬふりをしてもよかったのですが」
うん?
「どういう意味です?」
「日本神話で猫の出番は多くありません。あの黒猫は、神社に存在していい理由がないということ。どうせ黒い生き物なら、烏だったらよかったんです。八咫烏は、熊野から大和へ入る神武天皇を導くため、天照大神に遣わされたと伝えられてますからね」
意味がわかるようでわからない。でも、こちらを凍りつかせるような瞳に見据えられると反論できなかった。
俺の沈黙を納得と判断したのか、雫は「仕事に戻りましょう」と社務所に向かいかける。
そのとき。
「にゃー」
さっきの黒猫が階段を駆け上がり、小走りに向かってきた。
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