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境内に戻ってきた黒猫は、スピードを緩めず走り続ける。
「お前、戻ってきたのか!」
思わず駆け寄った俺を、しかし黒猫は巧みに避けて雫へと突進し、緋袴に鼻先をこすりつけようとする。動物は序列を重んじるというから、雫が「ここの主」と判断したのか(ある意味、正しい)。
これはかわいい! さすがに雫も──。
「汚れます」
俺の予測を薙ぎ払うように、雫は緋袴の裾をぱたぱたさせ、黒猫を追い払おうとする。顔つきは氷のように冷たいままだ。
本当に猫派なのか!? めげずに雫に甘えようとする黒猫が不敏すぎるっ!
「それは、野良猫ですかな」
声に振り返ると、佐藤勘太さんが立っていた。
源神社の氏子たちの代表、氏子総代である。明治時代から元町にある洋装店の店主で、70歳をすぎているとは思えないほど若々しい。
手にはなぜか、見るからに古い動物用のバスケットを持っている。
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