205人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
「はい、野良猫です」
答える雫は、一瞬にして参拝者向けの愛嬌あふれる笑みを浮かべていた。そうしながらも、迫りくる黒猫に緋袴の裾をぱたぱたさせ続ける。さっきまで違って、巫女さんと黒猫が戯れているようにしか見えない。
内心でため息をつきつつ、俺が状況を説明すると、勘太さんは言った。
「私に引き取らせてもらえないかな」
勘太さんは昔、猫を飼っていた。死んで随分と経つが、家を整理していたらバスケットが出てきたので、「お焚き上げ」を頼もうと思って持ってきたのだという。
神社では、古くなったお守りやお札、その他参拝者から依頼された物に祝詞を上げて燃やす儀式が行われる。これが、お焚き上げだ。
もちろん、なんでもかんでも燃やすわけではなく、あまりに大きな物や、有害物質を撒き散らす物はお断りする。最近は、近隣住民から「煙たい」とクレームが来るので、そもそもお焚き上げ自体できない神社もあるようだ。
「年が年だから面倒を見られるか不安だが、お焚き上げを頼もうと思ってその猫に会ったのもなにかの縁。私に飼わせてもらえませんかね」
雫はにっこり微笑むと、黒猫の後ろ首をつまんで持ち上げた。
最初のコメントを投稿しよう!