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俺が源神社で働き始めてから、まだ半年も経っていない。しかも両親が海外に移住して家を売られ、行くあてがなくなったところを兄貴に拾われただけで、信心もなければ神道への興味関心もない。だから神社のことには詳しくないが、
「そんな掟があるはずない」
「だよね。じゃあ雫ちゃんの個人的な判断か。確かに『俺たちと話してるときと雰囲気が違うな』と思ったことはあるけど……」
首を捻る央輔は、いまいちピンと来ていない様子だ。
腰まである黒髪を一本に束ね、背筋を真っ直ぐに伸ばした冗談のように美しい少女──雫が、大きな瞳を細めて愛くるしい笑顔を浮かべている様を思い浮かべているのだろう。
俺の方は、大きな瞳で冷え冷えとした眼差しを向けてくる姿が脳裏に刻み込まれている。
ため息をこらえつつ、コークハイが入ったジョッキの柄を握る。すると央輔は、なにかを思いついたように身を乗り出してきた。
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