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翌日の昼前。授与所で雫と番をしていると勘太さんがやって来て、肩を落として言った。
「あの黒猫が、いなくなってしまいました」
勘太さんによると、奥さんは黒猫を飼うことにあまり乗り気ではなかった。それでも、今朝、名前をどうしようか話し合っていると窓から逃げ出してしまった──。
「我が家は近いから、あの猫が源神社に戻っているかもしれないと思ったのですが」
「来てませんね。わたしに追い出されても戻ってきたのだから、野良猫になってもたくましく生きていきますよ。ここに現れたら連絡しますね」
雫の言葉を受け、勘太さんは肩を落としたまま帰っていった。
「さすがに、黒猫に冷たすぎませんか」
眉をひそめる俺に、雫は首を横に振る。
「わたしまで一緒に動揺したら、勘太さんがますます落ち込んでしまうでしょう」
え?
「ということは、雫さんは黒猫がいなくなって動揺しているんですか?」
雫は答えず、やって来た参拝者に「ようこそお参りです」と笑顔を向けた。
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