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その日の午後。境内の掃除をしていると、雫の姿が見えなくなった。さがしていると、社殿の裏手から声が聞こえてきた。
甘く、甲高く、なにより幸せそうな声だ。
なんだろう、と思いながら裏手に回った俺は見た。
「よーし、よしよしよし。かわいいねえ♥」
しゃがみ込んだ雫が、左手を動かしている。
手の先にいるのは、昨日の黒猫だ。
ひっくり返った黒猫は黄色い目を細め、ご満悦の様子で、雫にお腹を撫でてもらっていた。
なんだよ。やっぱり、かわいかったんじゃないか──。
まさに「猫撫で声」を出す雫の表情は、俺の位置からは見えない。絶対にかわいい顔をしている。
これだ、これが見たかったんだよ!
胸を高鳴らせながら近づこうとすると、雫が手をとめ、俺の方を振り返った。顔つきは、いつもと変わらぬ氷の無表情だ……って、あれ?
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