巫女さんは黒猫がお嫌い?

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「なんですか」  俺に問いかける声もまた、冷え冷えとしている。 「猫は、ほかの参拝者の迷惑になると言ってたじゃないですか。なのに、そんな風に……」 「参拝者には、人間だけでなく、猫も含まれることに気づいたんです」  俺が言葉の意味を理解できないでいるうちに、雫は参拝者向けの愛くるしい笑みを浮かべ、再び黒猫のお腹を撫で始める。 「ほかの参拝者さまに迷惑をかけたらだめですからねー、八咫(やた)」 「八咫?」 「この子の名前です」  俺にはきっちり無表情に戻って、雫は言った。  勘太さんを差し置いて名前をつけるなんて、かわいがるにもほどがある。昨日、八咫烏がどうとか訳がわからないことを言ったのは、本当はかわいがりたいのを我慢していたからだったんじゃないか?  猫に対してはツンデレなんじゃないか、この子? *  しばらくして迎えにきた勘太さんは、雫と八咫の様子を見るなり言った。 「この子は、ここにいた方が幸せそうだ」  その瞬間、俺は見た──表情こそ参拝者向けの笑顔のままだけれど、両手を小さく握りしめてガッツポーズする雫を!  かくして八咫は、源神社で半ノラとして暮らすことになったのだった。
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