205人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
「なんですか」
俺に問いかける声もまた、冷え冷えとしている。
「猫は、ほかの参拝者の迷惑になると言ってたじゃないですか。なのに、そんな風に……」
「参拝者には、人間だけでなく、猫も含まれることに気づいたんです」
俺が言葉の意味を理解できないでいるうちに、雫は参拝者向けの愛くるしい笑みを浮かべ、再び黒猫のお腹を撫で始める。
「ほかの参拝者さまに迷惑をかけたらだめですからねー、八咫」
「八咫?」
「この子の名前です」
俺にはきっちり無表情に戻って、雫は言った。
勘太さんを差し置いて名前をつけるなんて、かわいがるにもほどがある。昨日、八咫烏がどうとか訳がわからないことを言ったのは、本当はかわいがりたいのを我慢していたからだったんじゃないか?
猫に対してはツンデレなんじゃないか、この子?
*
しばらくして迎えにきた勘太さんは、雫と八咫の様子を見るなり言った。
「この子は、ここにいた方が幸せそうだ」
その瞬間、俺は見た──表情こそ参拝者向けの笑顔のままだけれど、両手を小さく握りしめてガッツポーズする雫を!
かくして八咫は、源神社で半ノラとして暮らすことになったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!