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「家をこわされたくないんです! 思い出が詰まってるんです!」
それが依頼人の第一声だった。
ここ源神社は「謎と悩みを解決してくれる、すてきな神社」という評判が広まっているため、いろいろな人がさまざまな相談に訪れる。ミステリーのネタになりそうな相談事も少なくない。
そうした謎を解くのは、「名探偵」と頼られている17歳の巫女・久遠雫の役割だ。
雫よりも兄貴の方が「名探偵」の気がしてならないことは多々ある。でも兄貴曰く、「かわいい巫女さんに事件を解決してもらった方が世の中がほっこりする」そうで、雫に謎解きを一任している。
こんな男が、この神社の宮司──一般企業で言うところの社長──なのだから世の中わからない。
閑話休題。
今回の依頼人は、30代半ばの女性だった。社務所の中にある応接間に案内するなり飛び出した言葉が、「家をこわされたくない」だ。
面食らったが、その後も、
「まだ住めるんです、住みたいんです!」
「『お金は心配いらない』と言われても納得できるはずない!」
「地球資源はかぎられているじゃないですか!」
こんな意味不明なことを大きな声で連呼されて、訳がわからない。
「だいたい母は──」
「そんな風に大きな声を出されると、ちょっとこわいです」
依頼人の叫びの合間に、雫が呟くように言った。大きな瞳は伏せ気味で、唇の前で両手を軽く組んでいる。反射的に抱きしめたくなるほど愛らしいが、絶対に演技だ。
「参拝者さまに愛嬌を振り撒くのは巫女の務め」がこの子のモットーなのだから……俺たち神社関係者には、にこりともしないくせに。
言いたいことはいろいろあったが、この愛らしさは女性にも通用するらしい。急速に落ち着きを取り戻した依頼人は「失礼しました」と一礼して、相談内容を話し始める。
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