どうせ住むなら新築で?

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*  依頼人の名前は、佐野(さの)美和子(みわこ)さん。子どものころからずっと、ここ横浜で暮らしている。中古で購入した戸建に夫と二人で暮らしていたが、少し前に男の子を出産した。家がいまのままだと古すぎて子育てしにくいのでリフォームを検討していたところ、母親の哲子(てつこ)さんが「去年、わたくしも新築に建て替えたから、あなたもそうしなさい。お金は全額、私が負担します」と言い出した。  夫と二人であちらこちらを手入れした思い入れのある家なので、まだこわしたくない。美和子さんがそう言っても、哲子さんは「親の厚意を受け入れなさい」「子育てするなら新しい家の方がいいに決まってます」などと繰り返すばかりで、聞く耳を持たない。  哲子さんは、山手(やまて)の一軒家で独り暮らし。夫(美和子さんの父親)の遺産を受け継いだし、警備会社の経営も順調なので、お金は有り余っている。これまでも浮世離れしたお金の使い方をすることは度々(たびたび)あった。  でも、娘の意向を無視するようなことはなかった。ここまで新築建て替えにこだわるのは尋常ではない。  最近の哲子さんは源神社がお気に入りで、「境内を歩くと心が清められる気がします」と言ってよく散歩している。だから、源神社(ここ)の人の言うことなら聞くかもしれない。理由を突きとめ、リフォームで済ませるように説得してほしい──。 *  山手か。
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