どうせ住むなら新築で?

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「久遠さんは、神さまにお仕えする巫女なのでしょう? 人様の家庭に口出しするより先に、やるべきことがあるのではありませんか?」 「神さまは、神社の近隣に住む氏子さんたちを守ってらっしゃいます。ですから、氏子さんの相談に乗ることは神さまにお仕えすることにつながるのです」  バチバチ 「リフォームの方がずっと安く済むのに、どうして新築にこだわるのです? お金の使い方を間違えているとしか思えませんが」 「お金持ちはケチケチせずに、お金をどんどん使うべきなんです。それが経済を回すことにもつながります」  バチバチ バチバチ 「美和子さんはリフォームをご希望なんです。どうせお金を出すなら、望みどおりにして差し上げた方がよろしいのではありませんか」 「いまはリフォームがいいと思っていても、長い目で見れば新築の方がいい。子どもなんだから、親の言うとおりにするべきなんです」 「美和子さんはお子さんもいる、立派な大人です。親であることを楯に考えを押しつけるべきではありません」 「久遠さんは親になったことがありませんよね。どうしてそんなことがわかるのです?」  バチバチ バチバチ バチバチ  ──耐えられないっ!  俺は悲鳴を上げそうになっていた。  雫と哲子さんはどちらも氷壁の如き表情で、瞬きすらほとんどせずお互いの顔を凝視したまま会話をしている。二人が言葉を交わす度に、見えない火花が飛び散るようだった。それに伴い、部屋の空気がどんどん冷たく、硬く、鋭くなっていく。真冬の空の下に……いや、冷凍庫の中に放り込まれた気分だ。ただ息を吸うことすら苦しい。  もう限界だった。  「お……お茶をいれ直してきましょうよ、雫さん」  雫を哲子さんと二人きりにしたらどうなるかわからなくて、俺はなんとか言葉を絞り出した。 「一口も飲んでませんから、いれ直す必要はないと思います」  雫が、哲子さんを凝視したまま言う。 「そうですね。もう冷めているでしょうが、関係ありません」  哲子さんも、雫を凝視したまま言う……って。 「なんでこんなところで気が合ってるんですか!」  思わず言ってしまった俺に、雫と哲子さんはお互いを凝視したまま声をそろえた。 「「合ってません」」  合ってる! 絶対に変なところだけ合ってる!!
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