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「実はツンデレで、壮馬にだけ笑顔を見せてくれたりは──」
「しない」
央輔が言い終える前に答えて、ジョッキに口をつける。コークハイが、さっきより苦くなった気がした。
「むしろあの子は、俺にだけ厳しいんだ。なにを言ってもにこりともしないし、俺が神社をやめるかもしれないという話になったときも『お好きにどうぞ』とどうでもよさそうだったし、少しでもため口で話したら『敬語を使ってください』と容赦なく𠮟ってくるし、本人も俺には絶対に敬語で話して距離を感じるし」
列挙しているうちに、気持ちが重くなっていった。特に敬語はな……。もう何ヵ月も一緒に働いているんだから、少しくらい打ち解けてくれてもいいのに。
「俺にも参拝者向けの笑顔を見せてほしいよ」
コークハイをテーブルに置くのと同時に、ため息がこぼれ落ちる。
しかし央輔は、さらに身を乗り出してきた。眼鏡の向こう側にある双眸は、なぜか輝いている。
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