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自分でもなんと言ったのかはわからない。とにかくしどろもどろに言葉を継いでどうにか雫を応接間から連れ出し、台所に移動した。
台所のドアを閉めるなり、雫は深く息をつく。
「こちらがなにを言っても、表情一つ変えないなんて。あんなに愛想がない人がこの世にいるんですね。驚きました。少しは微笑むとか、やわらかい言い方をするとかした方が会話が円滑に進むのに……どうしたのですか、壮馬さん? なぜ、不意打ちで人間に出くわして逃げる直前の猫みたいな目をしているのです?」
「……いえ、別に」
そう返すのが精一杯だった。
俺と話している姿を撮影して、動画を見せてやった方がいいんだろうか?
「……さ、さすがの雫さんも、哲子さんを説得するのは難しいんじゃないですか」
ごまかすことも兼ねて言うと、雫は首を強く横に振った。一本に束ねた黒髪が大きく揺れる。
「あそこまで頑ななのだから、新築にこだわる理由が必ずあるはずです。それを突きとめ、説得してみせます」
湯呑みを握る雫の手に、力がこもっていく。こんなに闘志を剝き出しにするのは珍しい。
本人は気づいていないが、似た者同士だからかもしれない。
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