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哲子さんが、駆けるように兄貴の前まで行く。
「あのときの栄達さん、すてきでした! 年甲斐もなくどきどきしてしまいましたわ。大地を踏みしめるようにすっくとお立ちになる姿、いまでも夢に見ます。ああ、わたくしもあと30年若かったら!」
「なにをおっしゃる。哲子さんは、いまも充分魅力的ですよ」
「もう、そんなことおっしゃって。また地鎮祭のお願いをしたいのに恥ずかしいです!」
女子高生のようにはしゃぐ哲子さんを見ながら、俺はぽつりと言う。
「解決ですね」
「そうですね」
雫も両目を大きくしたまま、ぽつりと言った。
哲子さんが境内でやけにそわそわしていたのも、ここに話をしに来たのも、雫との会話が平行線のままなのに帰ろうとしなかったのも、兄貴目当てだったからか。
新築建て直しにこだわる理由も、やっぱり兄貴。
哲子さんは、去年、地鎮祭を施行した兄貴の姿が忘れられないでいた。だから源神社をよく訪れるようになった。美和子さんがリフォームを考えていると知ると、兄貴にもう一度地鎮祭をやってもらうチャンスと見て、新築建て替えを強行しようとした。
……って、お金の使い方が浮世離れしているにもほどがあるだろう! 愕然としながらも、俺は雫に目を遣りちらりと思う。
──似た者同士なら、俺にもいまの哲子さんのような顔を見せてくれる日が来るかも。
その後、兄貴と一緒に写真を撮らせてあげて、さらに家をリフォームした際は清祓式という神事もあることを説明し、兄貴にそれを担当させてもらえないかと相談すると、哲子さんはリフォームであっさり手を打ったのだった。
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