巫女には黒猫がよく似合う

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「うまく対処してくれて、ありがとうございます」  神社には、いろいろな参拝者が来る。こちらが正論を言っても逆ギレする人も、残念ながらいる。  雫は氷の無表情に戻って「当然です」と頷いた。 「八咫には、わたしがきっちり計算して、身体にいいものを食べさせています。変なものを口に入れて病気になったらどうするんですか──ねえ、八咫。あなたもいただいたものをなんでもかんでも食べてはいけませんよ」  言葉の途中でしゃがみ込んだ雫は、「めっ」とするように立てた人差し指を八咫の額に置いた。表情は、いつも参拝者に向けている以上に愛くるしい、思わず抱きしめたくなるような笑顔だ。 「違いますからね」  俺がなにも言っていないのに、雫は唐突に言った。顔つきは、いまの笑顔が噓のような無表情に戻っている。 「勘違いしないでくださいよ、壮馬(そうま)さん。別にわたしは、八咫をかわいがっているわけではありません。うちの境内にいる以上、ちゃんと面倒を見て、幸せになってほしいと願っているだけです」 「それは『かわいがる』の中身を具体的に言っているのでは?」  突然の説明に戸惑う俺に、雫は「見解の相違ですね」と冷たい声音で返す。でも八咫が「みゃあ」と緋袴に鼻先をこすりつけると、一瞬にして笑顔になった。 「参拝者さまが増えてきたから、こんなところにいたら踏まれてしまいますよ」  ふわふわとした甘い声で言うなり八咫を抱きかかえ、境内の隅へと歩いていく。  ツンデレだ! 猫に関してはわかりやすくツンデレだ、あの子!!  ──ああいうの、俺にもやってほしい。 (終)
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