琴子さんの装束

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 その日の夜。俺が自分の部屋でストレッチをしていると、寝巻き姿の琴子さんが訪ねてきた。  寝巻きの色は、品のよさを感じさせる淡い朱色。  でも上下でデザインが違うから、違う寝巻き同士を間違えて着ている。遠慮しつつ指摘したけれど、琴子さんは「本当だ」と笑って受け流すなり切り出した。 「(そう)ちゃんも気づいたと思うけど、私が新しい装束を選んだとき、栄ちゃんが返事をするまでに『間』があったよね」  琴子さんも気づいていたのか。 「うん、わかった」。兄貴が琴子さんにそう返す前にわずかな──小説でたとえるなら全角スペース一文字分ほどの間があったのだ。いつもの兄貴なら、琴子さんがどんな装束を選ぼうと「いいね」と即答するはずなのに。  これが俺の抱いた「違和感」の正体だった。  俺がそう話すと、琴子さんは頷いた。
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