琴子さんの装束

5/12

205人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
 次の日の昼休み。 「琴子さんが選んだ装束が気に入らないみたいだな」  休憩室代わりの応接間で兄貴と二人きりになるなり、俺は単刀直入に切り出した。兄貴の切れ長の目が、珍しく大きくなる。 「どうして、そんな風に思うの?」 「琴子さんが装束を見せてから兄貴が返事をするまでに、間があったからだよ」 「壮馬の気のせいじゃない?」 「琴子さんも気づいていたよ」  畳みかけると、兄貴はなにか言いかけたが、苦笑いしながら首を横に振った。 「だったらごまかしようがないね。認めるよ。琴子さんがあの装束を選んだのが残念なんだ」 「なにが残念なんだよ?」  訊ねる俺を、これまで見たことがないくらい真剣な眼差しで見据え、兄貴は重々しい声で言った。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

205人が本棚に入れています
本棚に追加