琴子さんの装束

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「琴子さんは、いま使っているのと同じ橙色の装束を選んだだろう。確かに琴子さんは、あの色が似合う。でも朱色だって、同じくらい似合う。もちろん青だって、緑だって、黄色だって似合う。あげたらキリがないけど、橙色と朱色は別格だ。なのに琴子さんは、躊躇なく橙色を選んだ。それが残念なんだよ」  話が進むにつれて声の重さが増していくので、すぐには理解が追いつかなかったけれど。  ただの惚気(のろけ)じゃないか! 「あれ? どうして立ち上がるの、壮馬? 昼休みは、まだたっぷり残ってるよ?」 「まじめに考えて損したから、外の空気を吸って気持ちを切り替えてくる」 「僕は真剣に悩んでるんだよ?」 「昼休みはたっぷり残ってるから、好きなだけ悩んでくれ」 「琴子さんだって、本当は悩んでたんじゃないかな。ずっとしてきたからね」  予期せぬ単語に、襖に触れたところで手がとまった。兄貴は切れ長の双眸を伏せている。こんな兄貴も珍しい。 「どういうことだよ?」  兄貴の前に戻り、座り直してから問うと、兄貴は語り出した──琴子さんの過去を。
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