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琴子さんが装束の色を勝手に決められたという話は初めて聞いた? その意味するところを理解できないでいるうちに、雫は続ける。
「そもそも琴子さんは、そこまで装束の色にこだわらないのではありませんか。着るものには無頓着な方ですから」
そういえば琴子さんは、この部屋を訪ねてきたとき上下で違うデザインの寝巻きを着ていた。俺がそれを指摘しても「本当だ」と笑って受け流しただけだった。
まさか……と思ってるうちに、雫はさらに続ける。
「宮司さまは琴子さんの意思に関係なく、自分の好みで装束を二着買ってあげたかった。でも立場上、関係者を説得することは難しい。だから、壮馬さんを利用したのではないでしょうか」
利用……? あんなにがんばったのに……?
雫に告げられた言葉に、頭の中が段々と白くなっていく。
「一言、わたしに相談してくれればよかったのに。なにがあったのか、あんなに何度も訊ねたのに」
その一言で、俺の頭は色を取り戻した。雫は桜色の唇を、ちょっとだけ尖らせている。
かわいい。でも、もしかして怒ってる?
それを確認する間もなく、雫は無言で立ち上がり、俺の部屋から出ていった。襖を閉める音がいつもより大きい。やっぱり怒ってる。
それが合図になった。
兄貴め!
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