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心の中で叫び、俺は部屋を飛び出し階段を駆け下りた。兄貴は、まだ居間にいるようだ。徹底的に問い詰めるつもりだった。
「兄貴!」
襖を開けながら呼びかけても、兄貴は振り返らなかった。
座卓にカタログを広げ、琴子さんに見せていたからだ。
「あんまり興味がなかったけど、違う色の装束で神事をするのもいいかもしれないね」
「でしょう? 僕は琴子さんには、橙色以外だと朱色が似合うと思うけど、ほかの色を希望なら──うん? どうしたの、壮馬?」
振り返った兄貴は、にこにこしている。
琴子さんも、にこにこしている。
カタログに落とされた猫を思わせる目は、きらきらと輝いていた。
「……なんでもない」
そう返して、俺は襖を閉めた。
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