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壮馬は映画に誰と行く?
「本当にごめんなさい、壮馬さん」
箒を手にしたまま頭を下げる雫に、俺は「仕方ないですよ」と内心のがっかりを隠して笑った。
今年何本目かわからない「全米ナンバーワンヒット!」という触れ込みの映画の試写会チケットを2枚、氏子さんからもらった。雫も興味があるというので、今夜、一緒に行くことになっていた。
でも雫は兄貴の神事を手伝うことになり、残業決定。行けなくなってしまったのだ。
おかげでいまの俺の気持ちは、朝日が射し込む清々しい境内とは対照的にどんよりしている。
雫と暗いところで並んで座って、話題の映画を観る──あきらめるしかないとはいえ、その状況に未練はある。
「壮馬さんにご迷惑をかけた借りは、必ずお返しします」
雫の方はいつもどおりの氷の無表情で、社務所の前を掃き清める。残念がっている様子は微塵もない。それはそうだよな、と思いつつ、俺は、
「気にしないでください。代わりに行ってくれる人を見つけますから」
と返し、箒を手に社殿の方に向かった。
今年何本目かわからないとはいえ、「全米ナンバーワンヒット!」なのだ。声をかければ、誰か一緒に行ってくれるだろう。
「そういえば、佳奈さんが観たがってたな」
思い出すと同時に、独り言がこぼれ落ちた。
佳奈さんは、高校時代、俺がつき合っていた先輩だ。何年か音信不通になっていたが、少し前に再会。いまは元町・中華街駅から電車で10分ほどのところにある白楽で、塾の講師をやっている。
時折、源神社にも顔を出しているが、雫は「俺の元カノ」であることを全然気にしてない。これについても、「それはそうだよな」としか思わな──
ボキッ
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