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ものすごい音が、早朝の境内に響き渡った。反射的に振り返る。
雫が手にした箒が、下から1/3ほどのところで見事にへし折れていた。状況を理解できないまま本能で後ずさると、雫は俺の方を振り返った。
「折れてしまいました。随分と古くなっていましたからね」
そんなに古かったか、箒? とはいえ、折れることはありえるかもしれない。雫は合気道の有段者なので「なにかの弾みで力が入って『ボキッ』といった」ということはありえるかもしれない。
でも、それより重要なことが一つ。
折れた箒を手にした雫の表情は、今し方とは一転して笑顔だった。
愛くるしい。いつも参拝者に見せる笑顔以上に愛くるしい。「笑顔の似合う巫女さんコンテスト」があったら断トツで優勝できるくらい愛くるしい。
でも手には、折れた箒。
それも、俺が「佳奈さん」と口にした次の瞬間に。
──別の人と行こう。
自分でもよくわからないけれど、俺はそう決意した。
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