巫女さんと野球を観にいこう

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 ことの始まりは一週間前。氏子さんから、プロ野球のチケットをもらったことがきっかけだった。  元町から徒歩圏内にある横浜スタジアムで開催される試合で、対戦カードは横浜ブルースターズVS.北海道ソルジャーズ。球場全体を見渡せる位置で、座り心地のいい椅子も用意された特等席のチケットらしい。  兄貴は、2枚のチケットをひらひらさせながら言った。 「僕も琴子(ことこ)さんも用事があるから行けない。白峰(しらみね)さんはスポーツにあんまり興味がなくて、桐島(きりしま)さんはサッカー派。というわけで、壮馬が雫ちゃんと行っておいでよ」  俺だって特に野球が好きなわけではない。生まれてからずっと横浜市民なので、なんとなく地元のブルースターズを気にかけているくらいだ。「応援している」とはとても言えないし、球場まで行ったことも、行きたいと思ったこともない。  でも、雫と一緒に出かけるチャンスは逃したくない。  雫も「野球は詳しくないのですが」と困った様子だったが、札幌出身なので「せっかく北海道のチームが来るのですから」と同行してくれることになった。  普段の俺は、雫に神社の仕事を教えてもらってばかりだ。「詳しくない」という雫よりは、野球の知識があるはず。珍しく、雫に教える立場になれるかもしれない。そう思うと、少し楽しみだった。  自分が知らないことを知るのが好きでたまらない雫のため、ボークやインフィールドフライなど、説明が難しそうなプレーも解説できるように、あらかじめルールを調べておいた。  ──なのに、こんなことになるなんて。
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