巫女さんと野球を観にいこう

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「よし!」という歓喜の声を上げる雫は、顔つきこそいつもどおりの無表情ではある。でも頰はほのかに紅潮し、胸の前で左拳を握りしめていた。  雫は冗談のような美少女顔なので、黙っていても目立つ。しかもいまは「せっかく9回まで0点に抑えていたのに敵チームにホームランを打たれた」という悲劇によって、周りが空前絶後のがっかり感に包まれているのだ。  こんなことをしていたら、ますます目立つ。  白い目が容赦なく突き刺さってくるが、本人は気づく様子もなく「さすが沼津選手!」と声を張り上げている。 「雫さん、落ち着いて!」  俺が慌てて座らせても、雫はとまらない。 「沼津選手なら、ホームランを打ってくれるのではないかと思いました。ブルースターズ戦の通算打率は高いし、ドームよりも屋外の球場の方がホームランが多いんです。それに今シーズンは代打ホームランの日本記録がかかっているから気合いが──」  ちょ……ちょっと待て。 「雫さん、野球にめちゃくちゃ詳しいじゃないですか!」  ツッコミを入れずにはいられない。しかし雫は、頰を紅潮させながらも首を横に振った。 「詳しくありません」 「どこがですか」  知ってるのに知らないと言い張る新手のツンデレかと思ったが、雫は当然のように答えた。 「わたしはただ、沼津選手のことを知っているだけです」 「なんであの選手だけ?」 「神主(かんぬし)打法ですから」
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