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次の日。
「ふわーーーーー」
鳥居の側で白峰さんが、境内中に響き渡りそうな大あくびをした。社殿の前を掃いていた雫は、箒を手にしたまま白峰さんのもとに歩いていく。つられて俺も、後に続いた。
「奉務中にあくびはおやめください」
雫が言うなり、白峰さんは骸骨のような顔をしかめる。
「いいじゃないか。いまは参拝者もいないんだし」
「関係ありません。わたしたちは神さまにお仕えする身。いついかなるときでも、自分を律する心構えが必要です」
ただでさえ凜としている雫が巫女装束で言うと、一層凛々しく聞こえる。
白峰さんは「へいへい」と唇を尖らせた。穿いている袴の色は紫。この色の袴は高位の神職しか穿くことを許されないらしいが、どこからどう見ても「ガラの悪いジイサン」にしか見えない(まだ50代らしいが)。
「嬢ちゃんは巫女とは思えんな。普通はもっと、神職に遠慮するものなのに。まあ、そこが嬢ちゃんのいいところではあるが」
巫女は、神職の補助者。ざっくり言えば助手や部下に当たるので、神職の方が立場が上だ。神社によっては「巫女のくせに」「巫女ごときが」などと言い放つ神職もいるらしい。
雫は、首を横に振った。
「わたしの長所は関係ありません。宮司さまから、気づいたことがあれば相手が誰であろうと指摘するように仰せつかっています。それを実践しているだけです」
「まじめだなあ、嬢ちゃんは。でも、俺にだけ厳しすぎないか」
うん?
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