雫ちゃんの照れ顔

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「……お、お役に立てているでしょうか」  よほど恥ずかしいのか、雫の声は少し上ずっている。 「もちろんだ。俺の人生最高傑作になる!」  大袈裟だな、と思いつつ、俺は小林さん越しにキャンバスを覗き込んだ。その途端、息を吞んでしまう。  ルノワールやフェルメールに匹敵するとはとても思えないが、確かにすばらしい絵ではあった。  雫は冗談のような美少女顔なので、忠実に写実さえすれば、それなりにきれいな絵になることは間違いない。でも小林さんの絵は、写実的なだけでなく、生命力に充ちていた。まるで呼吸しているかのようだし、ほんのり赤い頬は、触れればじんわりあたたかそう。  小林さんが、神職になる前に巫女をしていたときの琴子(ことこ)さんを描いた絵を見たことがある。あっちは、あの人の堂々とした姉御肌の雰囲気が全然描けていなかった。琴子さんも「誰が見ても私を描いたことがわかる絵ではあるよね」と微妙な言い回しをしていた。  琴子さんが巫女をやっていたのは高校生のときだから、10年以上前ではある。  その間に腕を上げたにしても、同じ作者とは思えないレベル差だ。  この絵を見たら、雫はどんな反応を示すのだろう?
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