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それから1時間ほど経ってから。
できあがった絵を見た雫は大きな瞳を見開いた後、恥ずかしそうに俯き、「……ありがとうございます」と辛うじて聞こえる声で呟いた。小林さんは満面の笑みを浮かべる。そして「いい絵になった」と何度も頷き帰っていった。
「モデル、お疲れさまでした。随分と恥ずかしかったみたいですね」
鳥居をくぐった小林さんの姿が見えなくなるなり、俺は雫にねぎらいの言葉をかける。すると雫は、大きく息をついた。
直後、顔から愛嬌がきれいさっぱり消え失せる。
「参拝者さまに愛嬌を振り撒くのは巫女の務め」と考え、大真面目に実践しているが、同僚の俺たちには氷の無表情。それが久遠雫なので、この表情変化は意外ではなかった。
でも、口にした言葉は意外だった。
「恥ずかしがっているふりをしただけです」
え?
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