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次の日の朝。
俺と雫が居候している兄貴の家──草壁家から、雫が出てきた。上は飾り気のないクリーム色のシャツで、下はグレーの生地にピンク色の線が走ったジャージ。頭には、黒いキャップを被っている。
運動用服装の雫は新鮮だった。この格好もかわいい。走り出すと、一本に束ねた黒髪が猫のしっぽのように揺れて……って、いまは見惚れている場合じゃない。
境内の茂みに身を潜めていた俺は、充分距離を置いてから雫の後を追った。
こんなストーカーみたいな真似、俺だってしたくない。
でも雫は悪い男に騙されて、毎朝ジョギングを強要されているのかもしれない。それで疲労困憊なのにジョギングをやめられないのかもしれない。だとしたら助けなくてはならない。
だからこれは雫のためなんだ、うん。
どうなれば「悪い男に騙されて毎朝ジョギング」というシチュエーションになるのか具体的には思いつかなかったが、深く考えないことにして走った。
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