雫の朝が早すぎる~汐汲坂ジョギング編

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 境内を駆けながら考える。  雫は難度の高い巫女舞でも修得が早い。深窓の令嬢然とした外見からは意外なほど、運動神経抜群なのだ。とはいえ、所詮は17歳の女の子。成人男性である俺が追いつけないはずがない。  でも俺が鳥居をくぐったときには、雫の後ろ姿は既に思いのほか小さくなっていた。慌てて走る速度を上げるも、雫の後ろ姿はさらに小さくなっていく。明らかに加速している。そのままの勢いで、ちょっとしたスキー場に匹敵する汐汲坂を駆け上がっていく。  ……巫女じゃなくてアスリートだろう、このスピードッ!  猛スピードで汐汲坂をのぼり切った雫は、左に曲がった。俺も必死に坂を駆け上がったが、早くも脚がもつれ、息切れと眩暈がしている。人間が、こんなにも短い時間で疲労困憊になれる生き物だったなんて。  それでも顔を上げると、雫の後ろ姿ははるか先の方にあった。脚はもつれたままだったが、とにかく俺は走る。秋が近づいてきたとはいえ、今日も朝から気温が高く、むしむししている。このままでは雫に追いつくことなく倒れてしまいそうだ。  ……まずいっ!  朝っぱらから17歳の女の子の後をつけるだけでもどうかと思うのに、追いつけなかった挙げ句、街中で行き倒れ──最悪の結末が頭をよぎったが、幸いにも雫は、3分も走らないうちに足をとめた。
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