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頭上から降ってきた声に、反射的に振り返る。雫が、老人に浮かべていた笑顔が夢幻のような顔つきで、俺を冷然と見下ろしていた。
雫は身長150センチ前後しかないので、体格のいい俺をいつも見上げて話す。だからこの角度から雫の顔を見るのは新鮮だった。
この角度でも、やっぱりかわいい。そもそも、この子がかわいく見えない角度なんてあるのか──。
「壮馬さんは大きいから、隠れていることはすぐにわかりました」
雫の一声で、自分が見惚れていたことに気づいた。頰が赤らんでいることをごまかして顔をそらす俺には構わず、雫はもう一度訊ねてくる。
「ここでなにをしているのですか」
「それは……雫さんが悪い男に騙されて、ジョギングを強要されているんじゃないかと……」
「は?」
「なんでもありません。疲れてるのに毎朝走ってるから、なにかあるんじゃないかと思っただけです」
強引に話をまとめた俺は、老人が去っていった方向を見ながら立ち上がる。
「さっきの人──秋葉さんと呼んでいましたよね。どういう関係です? 100年近く前に崩壊した階段が、さもいまもあるように話したのはどうして?」
「隠すことでもないからお話しします」
そう言って歩を進め、元町百段公園のベンチに腰を下ろす雫。俺も隣に座る。
雫は、持っていったペットボトルの水で喉を潤してから語り始めた。
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