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あの老人──秋葉さんのおじいさんは横浜の市役所に勤務していて、元町百段の管理に携わっていたのだという。元町の名所である元町百段を、さらに有名にすることが仕事だ。その甲斐あって、元町百段は観光スポットとしてますます名を馳せていった。それがおじいさんの誇りだった。関東大震災で崩壊した後も、なんとか再建できないかと奔走していた。
それだけに、再建断念が決まったときのかなしみは大きかった。
子どものころの秋葉さんは、おじいさんから元町百段の思い出話を何度も聞いた。何度も何度も、あたかも、元町百段がまだそこに存在するかのように。
そのときのおじいさんの思い出話と、秋葉さん自身の記憶が混在している。
雫が秋葉さん父娘と初めて会ったのは、源神社で奉務を始めてすぐ。最初は挨拶するだけの間柄だったが、ある日、不意に元町百段の話をされた雫は、戸惑ってまともに返事ができなかった。それを「元町百段をのぼってきた」と勘違いされたのだという。
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「記憶が混在って……それはつまり……」
「専門的なことはわかりませんが、認知症の一環だと思います」
ペットボトルを持つ雫の手には、いつの間にか力がこもっていた。
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