雫の朝が早すぎる~元町百段編

6/9
前へ
/185ページ
次へ
〈やっほー、雫ちゃん。元気?〉  再生された動画は、元気一杯に両手を振る秋葉さんのシーンから始まった。 *  ご覧のとおり、俺は元気だ。    さて、いきなりなんだが、俺は女の子が大好きなんだ。特に若い子がよくてねえ。頭の中で考えていることの30%でも実行したら間違いなく刑務所行きだよ、わっはっはっ!  もちろん、普段からそんなことを考えているわけじゃないぞ。  あの日──雫ちゃんと初めてまともに話をした日は公園で元町を眺めながら、祖父から聞いた元町百段のことを思い出してぼんやりしていたんだ。俺はよっぽどぼーっとして見えたんだろうな、雫ちゃんが「大丈夫ですか」と心配そうに声をかけてくれた。  あまりにもかわいい顔が突然目の前に現れたものだから、しどろもどろに元町百段の話をしたら、雫ちゃんは「俺が記憶を混同している」と勘違いしたようだった。それで、一生懸命話を合わせてくれている。  メッチャかわいかったわ。  顔だけじゃない、性格もいいなんて。もしかして天使なんじゃないか、雫ちゃん!  しかも雫ちゃんは、それから毎朝俺に会いにきて元町百段の話をしてくれた。美少女が首筋に汗を浮かべて息を切らして、毎朝、俺のために走ってきてくれる──こんな感動(いい)話があるだろうか!  というわけで娘にも話を合わせてもらって、雫ちゃんを騙すことにしたわけだ。いやー、悪い悪い。  でもな、雫ちゃんが全然疑わないことにはびっくりしたぞ。  娘に調べてもらったんだが、雫ちゃんは頭の回転が速くて、源神社で参拝者のお悩みを解決しているんだってな。でも、ちょっと抜けてやしないか? 街で変なスカウトに引っかかったりしないように気をつけてな。  まあ、そんな雫ちゃんだからこそ、毎朝楽しかったんだがな。心臓に問題があるから医者に「無理はするな」と言われてるんだが生活に張りが出てきたよ、わっはっはっ!
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

206人が本棚に入れています
本棚に追加