206人が本棚に入れています
本棚に追加
*
動画を観終わった雫は、スマホを握ったままぴくりとも動かなくなった。ただでさえ大きな両目は見開かれ、瞬きすらしない。
「雫さんには悪いと思ったんですが、父が『どうしても黙っていてほしい』と言うから言えなくて……ごめんなさい」
留美さんに頭を下げられても、雫はなんの反応も示さない。ここまで魂を抜かれたようになった雫は初めてだ。見ていられなくて、俺は少し強い口調で言った。
「この動画の秋葉さんは、随分と元気そうです。いつもは弱っているふりをしていたんですよね。そこまでするなんて、さすがにひどすぎませんか」
「本当にごめんなさい。でもその動画は、元気なときに撮ったものなんです」
え?
我に返った雫も、留美さんの方を見遣る。
「お医者さんから、次に発作が起こったら危ないとずっと言われていたんです。その動画を撮り終わった後も、しばらくぐったりしていたんです」
──心臓に問題があるから医者に『無理はするな』と言われてるんだが。
動画の中で、秋葉さんが口にした言葉が蘇った。
留美さんの顔がゆっくりと持ち上がり、表情が露になる。
両目は、大きく潤んでいた。
「昨日の夜、発作が起こって──」
最初のコメントを投稿しよう!