三が日の後で…

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三が日の後で…

「雫ちゃんは2、3日寝込むらしいよ」  兄貴の言葉を思い出しながら、俺は卓袱台に片肘をつき、手にしたスマホを眺めていた。 「年末年始の神社はおそろしいことになる。今日中に食糧や水など、必要なものを買い込んでおくように」と兄貴に言われたのが12月30日。大袈裟な、と思っていたが、全然そうじゃなかった。  大晦日、年が明ける前から初詣の参拝者が押し寄せ、境内の外まで行列ができていた。彼らは、年が明けると順番に参拝。それから、お守りやお札を求めて授与所にやってくる。夜通しその人たちの相手をしたり、甘酒を振る舞ったり、納札入れに溜まったお守りやダルマを火にくべたり……した辺りから、記憶が飛んでいる。  今日は1月4日。参拝者も少しだけ減って、ようやくの休みだ。朝日を浴びて、ぼんやりしている。  神社では、こんなおそろしいことが毎年起こっているのか。そうとも知らず、年末は炬燵でのんびりテレビを観て、日付が変わったらまったり初詣に出かけていたことに申し訳なさすら覚える。  体格(ガタイ)のいい俺ですら、疲労困憊なのだ。  身長150センチ前後しかない上に華奢な(しずく)は、もっとだろう。  雫は、年末年始も変わらず参拝者に愛くるしい笑顔を振り撒いていた。さすがだ、と思っていたけれど、実は気力も体力も限界寸前。去年まで手伝っていた実家の神社では、三が日の後はこんこんと眠り続けていたらしい。  雫らしいと言えばらしい。でもなあ……。  スマホに視線を落とす。  ディスプレイには、年始に横浜で行われるイベントをまとめたサイトが表示されている。元町ショッピングストリートや赤レンガ倉庫、ランドマークタワー、よこはまコスモワールド。この近くだけでも、たくさんのイベントが開催される。氏子さんから割引チケットやイベント参加券ももらった。  雫と行きたかったのに──ため息が、口から漏れ出る。 「せっかく雫と──」 「どうして呼び捨てなのですか」
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