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失恋女とヤンキー兄さんの再会
「今日はありがとう。草さんのおかげで私、先輩の結婚式に笑顔で出られそうだよ」
「そっか。なら良かった」
人がまばらになった公園で、私は茜色の光を反射するヘルメットを彼に返した。
受け取った草さんはそれを仕舞い込むと、再びバイクに跨がってヘルメット越しにじっと私を見つめた。
「うん。あの、公園にUターンさせちゃってごめんね。このまま招待状の返事出してから帰りたかったんだ」
だから自宅じゃなく、こっちにしてもらったのだと滲ませた。自宅を明かすのが嫌とかではなく、せっかく彼に癒やしてもらったのだから、今のうちに行動に移したいと思ったのだ。
「ほんとに、今日はありがとう」
もう一度感謝を伝えてから頭を下げると、大きな手が私の頭にぽんっと優しく触れた。
「大丈夫。わかってるから。それに……少しでも気が楽になったんなら良かった。俺としても、衣子ちゃんには早く失恋から立ち直ってもらって、次の恋を考えてもらわないといけないからね」
「……え?」
言われた意味がわからなくて、ついぽかんとしていると、草さんはしてやったり、みたいな瞳でおもむろに手を伸ばした。
彼の指先が、おろした私の髪をするりと撫でていく。
「次、会った時は必ず声をかけるから……だからよろしく。依子ちゃん」
「え? え、それ、どういう―――」
「またね!」
夕暮れの公園で。
金色の髪をしたお兄さんはバイクに乗ったまま、私にそう告げた。
少し大きな音を立ててバイクが走り去った後、失恋の痛みが薄まった私を残して。
―――そして、二ヶ月後。
好き『だった』先輩の結婚式で彼と再会するのは―――また別のお話。
<終>
おまけ
~結婚式にて~
「依子ちゃん、お昼はいつもあの公園で食べてたでしょ」
「え……何で知ってるの?」
「俺の家があの公園の向かいだから」
「そうなの!?」
「うん。公園の駐車場からちょっと斜め向かいに、花屋があるでしょ? あれ、俺ん家」
「えええええ」
「あとも一つ言えば、衣子ちゃんの先輩っつーか新郎とは高校の同級生。今日の花も全部ウチが用意したんだ」
「そ、そうだったんだ……」
「うん。で、依子ちゃんがあの公園でお昼食べてるの見てたんだ。というか、いつも見てた」
「見てって……え」
「ごめんね? ストーカーみたいな事して。でも、うちの店からちょうどあのベンチが見えてさ。いっつもOLさんがいるなぁって思ってて、時々見てたらなんか、いつの間にか好きになってて。今日見たら泣いてたから、放っておけなくて。つい声かけたんだ」
「じゃ、じゃああの時言ってた好きな人って……」
「もちろん衣子ちゃんの事だよ。二ヶ月間、会って声かけたくて待ってたんだ。君の気持ちが落ち着いたら、絶対言おうと思ってて……俺の事、恋人候補として考えてくれないかな。前向きに」
「えっ、は、え……その、は、はい……」
「やった! 幸せにするからね!」
「っきゃあ! ま、まだ付き合う前だからっ。気が早……っ!」
―――失恋して、公園で泣いていたら金髪ヤンキーのお兄さんに声をかけられて。
タンデムして海に行って、そして心の痛手を癒やしてもらったら……
まさかの、告白が待っていました。
<完>
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