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ヤンキーお兄さんとバイク
「え、ええと、それじゃあ……よし! どっか泣けるところに行こう!」
金髪の美人系お兄さんは、私が頷くとなぜか一瞬驚いたような顔をして、それから気を取り直したみたいに、にっと悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。
「泣けるとこってどんな所?」
なんだか小学生の男の子みたいな表情のお兄さんに、悪い人ではなさそうだと感じて、つい軽めの突っ込みを入れてしまう。
「大丈夫だから俺にまかせて。絶対いいとこ……綺麗なとこに連れてってあげるから!」
綺麗なとこ……やっぱ海とかかな。
こういう場合。
こちらの突っ込みにも嫌な顔ひとつせず、お兄さんは笑いながら私の手をぐいぐい引っ張っていく。
なんだか、親戚の子を遊園地に連れてきた時みたいで、彼の歳も知らないのに姉のような気分になる。
けれど私の手首を掴んだ彼の手は大きく、男性らしい骨張った感触が肌に伝わっていた。
それにほんのちょっとだけドキドキする。
変なの。
なんで私、OKしちゃったんだろ。
いつもなら絶対断るか、逃げるかするはずなのに。
自分で自分の行動を不思議に思う。
失恋の痛手にしたってかなり無謀だ。それくらいの判断はできる。
でもま、いっか。
なんかお兄さん、楽しそうだし。
普段の自分からは考えられない楽天的な思考に内心苦笑した。
たまには、成り行きにまかせてみるのもいいかもしれない。
ちょっとした冒険だ。
「とりあえずこっち来てー。乗せていってあげる!」
「乗るって何に?」
「見てからのお楽しみー!」
お兄さんは何がそんなに楽しいのか満面笑顔だ。さっきは泣きたい気分だと言ってたけど特に無理をしているようには見えない。それとも笑顔の裏で泣くタイプなんだろうか。
たとえ嘘だったとしても別にいい。
歩きながらお兄さんをまじまじ観察してみる。
見た目は確かに派手だけど、顔立ちは本当に綺麗な人だ。
日本人で金髪が似合う人なんて芸人さんくらいだと思ってた。
ここまでストレートに『似合う』男性は初めて見る。焦げ茶色の大きな瞳や、高く通った鼻筋なんかはまるで彫刻みたいだ。
服装がラフだから柄悪く見えるだけで、髪を整えてスーツを着込めば俳優さんみたいになりそうだ。
きっと彼はナンパなんてしなくても、女性の方から勝手に寄ってくるタイプだろう。
とすると、そう危ない感じがするわけでなし、一日くらい付き合っても大丈夫ではなかろうか。なんて、一応自分なりに推測してみる。
「あったあった。ほら、あれ!」
強くも無く弱くも無い力に引っ張られるまま付いていくと、公園の出入り口にある車両進入禁止のポールが見えた。
向こう側は駐車場になっており、数台の車や自転車が停めてある。お兄さんは私の手を掴んだのとは反対の手で、駐車場の端、自動販売機の横に停めてある一台の黒いバイクを指差していた。
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