やっぱり定番は海です

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やっぱり定番は海です

 ―――それから高速に乗って、途中のパーキングエリアで会社へ早退の連絡をしたりお茶をしたりして、一時間ほど経った頃。  私達は打ち寄せる白波を横目に、真昼の海岸線を走っていた。 「わ……!」 「どー? 爽快っしょ!」 「はいっ!」 「よし、いい返事!」  背中越しに言われて、返事をしたら楽しそうな声で返される。  彼が声を発する度に手に振動が伝わるのが、なんだか心地よかった。  びゅう、という風の音が耳に響き、突風がおろした髪をすごい勢いで靡かせている。  風を切る感触が気持ちよくて、私はヘルメットの中で自然と笑顔を浮かべていた。   「はい! ど定番の海でーっす!」 「綺麗……!」  やがて前方に白い砂浜が見えて来て、私達は手前の公共駐車場でバイクを降りた。  海の方へ繋がる階段を下っていくと、砂の向こうにきらきら光る波しぶきが見える。 前を歩く草さんに連れられ進んでいくと、まるでダイヤの粒を散りばめたような眩しい海原が広がっていた。 「春の海って、こんなに綺麗なんだ……!」 「どう? 気に入った?」 「はい!」  輝く海に目を細めながら、大きく深呼をして潮の香りを肺に満たす。  海風に微かに花の甘いが混じっている。  白く光る海に、花の香り。  この時期はこんな風に素敵になっているだなんて、全く知らなかった。  とても綺麗で、眩しくて。  思わず涙が出てしまいそうだ。 「……泣いても、いいよ? 今は俺しかいないし」  思った事が顔に出ていたんだろうか。今はヘルメットを外した草さんが、金色の髪を海風に靡かせながら私を覗き込み言った。  彼の髪はライオンのたてがみのように広がっていて、なのに瞳はどこか優しく穏やかだ。    海岸には私達以外の人気はなく、あるのは寄せては返す波音だけ。 「草……さんも、泣きたいんじゃないの」 「まあ、そうだねー」 「理由聞いてもいい? 私も……話すから」 「いいよ」  不躾な要望だというのに草さんは快く頷いてくれた。  それにありがとう、と言いながら白い砂浜に腰掛ける。私は自分の隣をぽんぽん叩いて草さんに座るよう促した。  彼はふっと微笑んで、静かに隣に座ってくれる。 「今の会社、入って三年になるんだけど……入社してすぐ、好きになった先輩がいたの。素敵な人でね、面倒見良くて、怒ると怖いんだけど、ちゃんとフォローもしてくれる人で……」  私は、新社会人になってから三年間続けた片思いについて話しはじめた。
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