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何日か経ってから
そいつと会う機会があった。
旅館の宴会場を使ったかなり大人数の飲み会で、2人になれる瞬間を見計らっていた。
振られたことで満身創痍のわたしには
行きたい気持ちなんて
微塵もなかったけれど、
大宴会が好きな弊社にいる以上
免れられない。
もちろんその飲み会には、例の彼もいる。
できるだけ見ない努力はしたが、
どうしても視界に入ってくるタイミングがある。
その度に全身の血管がジワッと熱くなっているのを感じた。
まだわたしは彼に気持ちを揺らされている。
あんな振られ方をしてもまだ好きなのだろうか。
だとしたら、わたしは本当に馬鹿だと思う。
「話したいことがあるんだけど」
とそいつをうまく誘い出すことができた。
わたしの声のトーンから、
明るい話ではないということを悟ったらしい。
くだらない話をして
わたしも適当に笑いながら
あまり人目につかないように
その場を抜け出した。
長く連なるソファがある
ロビーのようなところまできて、
そこに腰掛けた。
もう旅館のロビーも売店も閉まって
電気も消されており、
静かで薄暗い場所だった。
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