揺られ

2/7

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
何日か経ってから そいつと会う機会があった。 旅館の宴会場を使ったかなり大人数の飲み会で、2人になれる瞬間を見計らっていた。 振られたことで満身創痍のわたしには 行きたい気持ちなんて 微塵もなかったけれど、 大宴会が好きな弊社にいる以上 免れられない。 もちろんその飲み会には、例の彼もいる。 できるだけ見ない努力はしたが、 どうしても視界に入ってくるタイミングがある。 その度に全身の血管がジワッと熱くなっているのを感じた。 まだわたしは彼に気持ちを揺らされている。 あんな振られ方をしてもまだ好きなのだろうか。 だとしたら、わたしは本当に馬鹿だと思う。 「話したいことがあるんだけど」 とそいつをうまく誘い出すことができた。 わたしの声のトーンから、 明るい話ではないということを悟ったらしい。 くだらない話をして わたしも適当に笑いながら あまり人目につかないように その場を抜け出した。 長く連なるソファがある ロビーのようなところまできて、 そこに腰掛けた。 もう旅館のロビーも売店も閉まって 電気も消されており、 静かで薄暗い場所だった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加