伍ノ刻、老婆と呪術

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「おい婆、それでどうなんだ」 「どうもこうも」  貞治の問いに、赤い唇が紫煙を吐く。 「……よく死んでおらぬな」 「だが平気そうじゃねえか」 「(たわ)けが。あれは間に合わせじゃぞ」  白粉をはたいた顔を(しか)め、擦り寄ってきた猫又の背を撫でるのを見た。 「婆、あれはなんなのだ」 「あれか。あれはのぅ」  流し目ひとつ、くれると一呼吸おく。 「呪術じゃなあ。しかも相当厄介ぞ」 「なに?」 「昨日今日のことではない。辻崎 修司――こやつの魂魄には絡みつくように様々な者が取り憑いておるぞえ」  さすがは三途の川にて、亡者の罪の重さをはかるとされる鬼女。 そうそうに彼に憑きし物の怪の正体見たり、と思いきや。 「色んな顔がな、ある」 「え?」 「女や男。蟲や赤子もおるぞ。それらが、どろどろの泥のようにな。溶けて縋りついておる……離さぬ死ぬまで、とばかりになあ」 「それらが悪さしてるのか」 「さあて」 「おい」  どこか歯にものの挟まったような口ぶりに、彼は太眉を顰めた。 「分からぬものは分からぬ。生者には滅多なことも出来ぬでのぅ」 「しかし」  これでは祓い用が分からんだろう、と尖らせた口をせせら笑われる。 「この者の生まれ縁にも、深く関わっておるのであろうて。ともかく、これは呪じゃ。迂闊な事をするでないぞ」  話はこれまで、とばかりに煙管の灰を火鉢に叩き落とす。 「畜生め」  貞治はそうぼやき、ため息をついた。
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