弐ノ刻、好色と軽妙

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「兄さん、入りますね」 「! 」 応える間もなかった。 すぐに開いた襖から覗いたのは、千代の顔だ。先刻と打って変わって、機嫌が良いらしい。 目元を薄ら紅色に染めて、声にも色なんぞ滲ませて。 「お客様ですよ」 まるで何処ぞの良家の子女のように、上品に会釈などする。その変わりように、彼は薄気味悪さすら感じて黙り込んだ。 「失礼」 ――千代の後から入ってきたのは、一人の青年であった。 透けるような白い肌。整った容姿に、涼し気な目元をこちらに向けている。 「やぁ『久しぶり』」 嗚呼、あの男だ。と彼は観念するように息を吐いた。 男の細く長い指が、自らの唇をそっと撫でたからである。
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