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(しかし一か八かだ)
華奢で形の良い顎を引っ掴み、さあ塞がんと意気込んだ時である。
「――らっ、人の話を聞けっ!!」
「ぐふっ」
突然の衝撃が腹部を襲う。
先程から滅茶苦茶に暴れていたらしい修司の足が、遂に彼の腹に命中したのだ。
そんなことも気が付かなかったくらい考え込んでいた貞治は、身構えていない所への打撃に酷く動揺する。
「き、君が悪いんだからな」
蹲り咳き込むのを見て、修司が気まずそうに呟いた。
「何度も『もう大丈夫だから』って叫んだのに」
「そうなのか」
痛みが引いて顔を上げれば、服を掻き集めんとする素肌の腕が目に映る。
「君、全然聞いてやしなかっただろう」
「しかし」
「いいから出て行ってくれたまえ」
「だが」
「それとも君は男である僕の着替えを覗きたい、という助平野郎の男色――」
「分かった分かった。皆まで言うな」
ようやく彼も正気に返ったらしい。
皮肉げに継ぐ言葉に、顔を伏せ慌てて退散した始末であった。
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